『木漏れ日と魔女』を読んだ印象
世の中に香りがする花は数多く存在しますが、藤と茉莉花という香りの組み合わせの相性が良いものを選ばれていたので、作家さんはすでに香りを深く学んでいらっしゃるのか、それとも作家さんとしての本能でその香りの相性の良さを感じ取っているのかと驚きました。
『木漏れ日と魔女』は、田舎での出来事を書いた物語は少なくない中で、切なさではなく温かさが表現されていたことが印象的で、主人公の心の中で魔女と呼ばれるくらい一見怪しい人の善意と、二人の美しい交流が素敵な物語だと思いました。
陽茉莉の香りについて
二十歳になって魔女の家を再訪して香水を嗅いだシーンを大切に考え、藤と茉莉花のフローラルブーケを中心に、森林の香りや、土と木の柔らかさ、ミントティー、お香など沢山出てくる香りのポイントを上手くまとめ上げて一つの香りにすることと、作品中で言及されている爽やかさとオードパルファンとしての香りのボリューム感のバランスがポイントとなりました。
この物語のメインである藤の花と茉莉花のフローラルノートを表現するにあたり、藤の花から抽出された天然香料はこれまで見たことが無く、私は子供のころに嗅いだ藤の花の香りを思い浮かべました。それはブドウのような香りがするものでした。一方、茉莉花にはジャスミン・サンバックの花から抽出された天然香料があります。私は以前いくつかのメーカーのジャスミン・サンバックを比較していて、オレンジフラワーのニュアンスが良く感じられるメーカーのものを購入していました。ブドウとジャスミン・サンバック(オレンジフラワーノート)の甘さの部分には共通する香気成分があり、その相性の良さを意識してフローラルのパートを作りました。
作品をご応募いただいた皆様へ
今回のテーマが発表された時、ツイートも拝見していて多くの方々が当企画に興味を持ってくださっていることを知り、感謝の気持ちでいっぱいでした。
そして、皆様の貴重なお時間を費やして作品を執筆し、応募してくださったことに感謝申し上げます。
惜しくも受賞作に選ばれなかった作品も、私の記憶に残っているシーンはいくつもあります。
今後も新しい様々な企画がmonogatary.comのプラットフォームで発表されることと思いますので、香水以外の企画でも引き続きご応募よろしくお願い申し上げます。
COMMENT
深い森の奥、木漏れ日が降り注ぐ庭で、魔女と出会った。
大人の秘密基地のような空間、花と緑の香り、美味しいお茶とお菓子、緑ガラスの香水瓶。豊かな表現と丁寧な筆致で描かれる幻想的な世界にぐっと引き込まれ、いつしか私も、静謐で芳醇な夢のひとときを陽茉莉と一緒に味わっていました。素敵な香りを楽しみながら、是非この美しい物語の世界に浸ってみてください。
汐見夏衛